護身術や武道の動画では、よく「力を使わない」という表現が使われることがあります。
実際に、過度な力を使わなくても成立する技術は存在します。
では、「力を使わない技術がある=護身術に筋トレは必要ない」ということなのでしょうか?
結論から言えば、筆者は護身術にも筋トレは必要だと考えています。
今回は、護身術に筋トレが必要だと考える理由と、護身のための身体づくりに取り入れやすい筋トレについて解説します。
「力を使わない」と筋トレは矛盾しない

筆者が考える「力を使わない」とは、技を使う際に相手に過度な力を加え、余計な抵抗を与えないことです。
そのため、「力を使わないこと」と「筋肉を鍛えること」は矛盾しません。
むしろ筋力を高めることで、同じ技でもより大きな力を発揮できる場面があります。
また、達人のようにすべての攻撃を力を使わずにいなすことを想像しているのであれば、現実にはそう簡単ではありません。
技を使う以前に、相手の攻撃に耐えたり、押されたり引っ張られたりしたときに姿勢を保ったりするためにも、筋力は必要です。
このように、技を出す瞬間に過度な力を込めないとしても、護身において筋力が必要になる場面は多くあります。
筋トレが護身に役立つ場面

では、実際に筋トレが護身に役立つ場面について紹介していきます。
危険な相手から狙われにくくする
想像してみてください。
あなたが初めて格闘技のジムに行き、どうしてもスパーリングをしなければならないとします。そして、次の2人のどちらかを相手に選ばなければなりません。
1人目は、身長170cmで筋肉がついており、背筋がピンと伸びていて、自信のある顔つきをしている人。
2人目は、同じく身長170cmですが、筋肉が少なく細身で、どこか弱々しく見える人。
かなり極端な例ですが、「戦う」ということだけを考えれば、2人目を選ぶ人の方が多いのではないでしょうか。
犯罪者によるターゲット選びもまったく同じとは言えませんが、見た目から受ける印象は、相手が「この人に手を出すかどうか」を判断する材料の一つになり得ます。
もちろん、筋肉があれば犯罪に遭わないわけではありません。
しかし、身体を鍛えて体格がよく見えることで、「抵抗されそう」「簡単な相手ではなさそう」と思わせることができれば、狙われにくくなる可能性があります。
つまり筋トレは、実際に戦うためだけではなく、戦う前の段階で自分を守ることにもつながる可能性があるのです。
危険な場所から逃げる
危険な場所から逃げるためにも、さまざまな場面で筋力や身体能力が必要になります。
走って危険から逃げる
これは筋トレというよりも、継続的な運動によって身につく身体能力の話になります。
日頃から運動を続けることで、走るための体力や、逃げ続けるための持久力などを養うことができます。
不安定な場所でもバランスを保って移動する
逃げる場面が、必ずしも走りやすく開けた場所とは限りません。
足場の悪い場所を移動したり、人混みや障害物を避けながら逃げたりする可能性もあります。
そのような状況でも、足腰を鍛えておくことで、バランスを保ちながら移動するための身体の土台を作ることができます。
障害物を越える・よじ登る
逃げている途中で行き止まりになったり、障害物を越えた方が早く逃げられたりする状況も考えられます。
そんなとき、フェンスや壁をよじ登るために自分の身体を引き上げる筋力や、ガードレールなどの障害物を越えるための脚力があれば、逃げられる経路の選択肢を増やすことができます。
このように、身体能力を鍛えることは戦うためだけではなく、危険から逃げるためにも役立ちます。
走力や持久力だけでなく、足場の悪い場所を移動する力や障害物を越える力があれば、逃げる方法の選択肢を増やし、危険な状況を打開できる可能性を高めることができます。
戦わざるを得ない状況で身を守る
戦わざるを得ない場面で身を守るためにも、筋力は必要です。
これは単純に「力で相手を倒す」という意味ではありません。
では、具体的にどのような場面で筋力が必要になるのでしょうか?
引っ張られたときに踏ん張る
襲われた際に手をつかまれて引っ張り込まれたり、どこかへ連れて行かれそうになったりすることも考えられます。
そのようなとき、相手に簡単に引っ張られないためには、踏ん張るための足腰の強さが必要です。
相手から圧力をかけられたときに姿勢を保つ
相手から強く押されたり、打撃を受けながら前に出てこられたりしたとき、姿勢を崩されないためには足や背中の筋力が必要になります。
どれだけ技術を身につけていても、姿勢を大きく崩されてしまえば、技を使うこと自体が難しくなります。
取っ組み合いで投げられそうになったときに耐える
実際の争いでは、競技のように一定のルールの中で戦えるとは限りません。
相手につかまれたり、押されたり、取っ組み合いになったりする可能性もあります。
さらに、リングやマットとは違い、路上では地面が固いコンクリートであることもあります。そのような場所では、転倒や投げによって大きなダメージを受ける可能性があります。
相手に簡単に崩されたり投げられたりしないためにも、姿勢を維持して踏ん張る身体の強さが重要になります。
相手を抑える・制御する
いざというときに相手の動きを抑えたり、制御したりする際にも筋力が必要です。
相手が圧力をかけてきたり、組んだ状態から押し込んできたりしたとき、それに対抗するためには背中や足腰をはじめとした全身の筋力を使います。
もちろん、護身術では相手を抑え続けることよりも、安全に離れて逃げることが優先です。
しかし、すぐに離れられない状況では、相手の動きを一時的に抑える力が身を守ることにつながる場合もあります。
技の威力を高める
筋力がそれほどなくても使える技はあります。
しかし、同じ技術を身につけているのであれば、身体能力が高い方がより大きな力を生み出せる場面があります。
これは「力任せに技を使う」という意味ではありません。
相手の攻撃を捌いて崩す、相手の身体を動かす、投げるといった動作でも、全身の筋力と、それをうまく連動させる身体能力があれば技を使いやすくなります。
つまり、技を使う瞬間に必要以上の力を込めなくても、その技を支えている身体そのものの強さには意味があるのです。
このように、実際に戦わざるを得ない場面では、技術だけでなく身体能力があることで、身を守れる可能性を高めることができます。
特に護身術が必要になるのは、自分が十分に準備できていない緊急時です。
突然つかまれたり、押されたり、攻撃されたりしたときに、すべてを技術だけできれいに捌くことができるでしょうか。
身体能力があれば、突然の攻撃を受けてもまず踏ん張り、姿勢を保ち、そこから身につけた技術を使える可能性が高まります。
技を使うためにも、そこまで耐えることのできる身体が必要なのです。
もちろん、戦うことは最終手段です。危険を事前に避け、逃げられるのであれば逃げることを優先するべきでしょう。
しかし、護身を考える以上、どうしても逃げられない状況で自分の身を守る力についても考える必要があります。
武道には「鞘の内」という考え方があります。刀を抜いて戦う力を持ちながらも、むやみに刀を抜くことなく、気構えや立ち居振る舞いによって争いを避けるという考え方です。
護身術も同じように、危険を避けることを最優先としながら、本当に必要になったときには自分の身を守れる力を備えておくことが大切なのではないでしょうか。
護身術で鍛えたい部位と筋トレ方法

ここまで紹介してきたように、護身では逃げる、踏ん張る、姿勢を保つ、相手の圧力に耐えるなど、さまざまな場面で身体能力が必要になります。
では、実際にどのような筋トレを行えばよいのでしょうか。
ここでは筆者自身も行ってきたトレーニングの中から、護身に必要な身体能力を鍛えるために取り入れやすい種目を紹介します。
脚を鍛える
護身では、逃げるために走ることはもちろん、引っ張られたときに踏ん張る、押されたときに姿勢を保つなど、さまざまな場面で足腰の強さが必要になります。
脚を鍛えるためにおすすめなのが、スクワットとデッドリフトです。
スクワット
スクワットは、太ももやお尻を中心に鍛える代表的なトレーニングです。
【やり方】
- 足を肩幅程度に開いて立つ
- 背中が大きく丸まらないように姿勢を保つ
- お尻を後ろに引きながら、膝を曲げて腰を落とす
- 足裏で床を押すようにして立ち上がる
- 同じ動作を繰り返す
初心者の場合は、まず10回×3セット程度を目安に自重で行ってみましょう。
自重で物足りなくなってきたら、ダンベルなどを持って負荷を増やすことができます。さらに本格的に鍛える場合は、ジムなどでバーベルスクワットを行う方法もあります。
自重であれば器具が必要なく、自宅でも始めやすいのがメリットです。
難易度:低〜中
自宅:◎
デッドリフト
デッドリフトは床に置いた重量を持ち上げるトレーニングで、脚やお尻、背中などをまとめて鍛えることができます。
【やり方】
- バーベルの前に足を腰幅程度に開いて立つ
- 膝と股関節を曲げてバーベルを握る
- 背中が大きく丸まらないように姿勢を作る
- 足で床を押しながら、膝と股関節を伸ばしてバーベルを持ち上げる
- 身体を起こしたら、コントロールしながら元の位置へ戻す
最初はフォームを覚えることを優先し、軽い重量から始めましょう。
慣れてきたら少しずつ重量を増やしていきます。無理に重い重量を扱うよりも、正しいフォームを維持できる範囲で行うことが大切です。
バーベルやプレートを使用するため、自宅よりもジムで行いやすい種目です。
難易度:中
自宅:△
背中を鍛える
背中を鍛えるなら、懸垂がおすすめです。
背中だけでなく腕や握る力も使い、自分自身の身体を引き上げる力を鍛えることができます。
【やり方】
- 肩幅より少し広い程度でバーを握る
- バーにぶら下がる
- 胸をバーへ近づけるようなイメージで身体を引き上げる
- 顎がバー付近まで上がったら、ゆっくり身体を下ろす
- 同じ動作を繰り返す
懸垂は自分の体重そのものが負荷になるため、初心者には難易度の高いトレーニングです。
最初からできない場合は、足を台につけて補助したり、ジャンプして身体を持ち上げてからゆっくり下ろす「ネガティブ懸垂」から始めたりする方法があります。
最初はできる回数から始め、徐々に回数を増やしていきましょう。
自宅でも懸垂バーなどがあれば行えますが、器具が体重を安全に支えられることを確認してから行ってください。
難易度:中〜高
自宅:○
懸垂をしていると、背中よりも先に握力が限界になり、十分に背中を追い込めないことがあります。
そんなときにおすすめなのが、懸垂用グローブです。
筆者自身も使用しており、握る力をサポートしてくれるため、背中を意識して懸垂を行いやすくなります。
特に初心者の場合、腕や握力だけに頼るのではなく、背中を使って身体を引き上げる感覚をつかむためのサポートとしても活用できます。
全身を鍛える
全身を鍛える方法としておすすめなのが、ハイクリーンです。
ハイクリーンは脚・お尻・背中などの筋肉を連動させて、全身で瞬間的に大きな力を発揮するトレーニングです。
【やり方】
- バーベルの前に立ち、足を腰幅程度に開く
- 膝と股関節を曲げてバーベルを握る
- 背中が大きく丸まらないように姿勢を作る
- バーベルを床から持ち上げる
- 脚と股関節を勢いよく伸ばして、全身でバーベルを引き上げる
- 肘を前に出しながら、肩の前でバーベルを受け止める
- 一度姿勢を整えてからバーベルを下ろす
ハイクリーンはスクワットや懸垂よりも動作が複雑なので、最初から重い重量を扱う必要はありません。
まずは軽い重量で一連の動作を覚え、フォームが安定してから少しずつ負荷を増やしていきます。
また、重量を持ちながら全身を動かすため、脚や背中だけでなく、姿勢を維持するために体幹も使います。
筆者は、護身のための身体づくりでは、体幹だけを狙ったトレーニングを必ずしも行う必要はないと考えています。
スクワットやデッドリフト、ハイクリーンなどで重量に負けず姿勢を保ち、全身を連動させて動かすことでも体幹を鍛えることができます。
特にハイクリーンはフォームの習得が難しいため、初めて行う場合は経験者やトレーナーに教わりながら行うのがおすすめです。
また、バーベルやプレート、十分なスペースが必要になるため、自宅ではやや行いにくい種目です。
難易度:高
自宅:△
自宅でハイクリーンに近い全身運動を行いたい場合には、ウォーターバッグを活用する方法もあります。
筆者自身も以前、ウォーターバッグを使ったトレーニングを行っていました。
バーベルほど大きな重量を扱うことは難しいですが、ウォーターバッグは中の水が動くため、重量の位置が安定しません。
その動きに対応しながら姿勢を維持する必要があるため、全身を使いながらバランスを保つトレーニングにもなります。
護身では、常に安定した足場や姿勢で動けるとは限りません。そのため、こうした不安定な負荷に対応しながら身体を動かすトレーニングを取り入れるのも一つの方法です。
護身のための筋トレで大切なこと
ここまでいくつかの筋トレを紹介しましたが、すべての種目を行わなければ護身に役立たないというわけではありません。
筋トレを始めたばかりであれば、自宅でできるスクワットや、環境があれば懸垂など、取り組みやすいものから始めれば十分です。
大切なのは、単純に筋肉を大きくすることだけを目的にするのではなく、自分の身体を支える、踏ん張る、引き上げる、全身を連動させて力を出すといった身体能力を高めていくことです。
また、筋力だけを鍛えれば護身ができるようになるわけでもありません。
危険を察知して避けることや、逃げるための持久力、実際に身体を動かす技術なども必要になります。
筋トレは護身術そのものではありませんが、身につけた技術をいざというときに使うための「身体の土台」を作るものです。
技術と身体能力のどちらか一方に偏るのではなく、両方を少しずつ高めていくことが、自分の身を守る力につながると筆者は考えています。
まとめ
今回は、護身術に筋トレが必要だと考える理由と、護身に役立つ筋トレについて紹介しました。
「力を使わない技術」があるからといって、身体を鍛える必要がないわけではありません。
危険から逃げる、相手に引っ張られたときに踏ん張る、姿勢を保つ、そして身につけた技術を使うためにも、身体能力は重要な土台になります。
もちろん、護身で最も大切なのは、危険を避け、戦わずに済むのであれば戦わないことです。
しかし、それでも逃げられない状況に備えて身体を鍛えておくことは、自分を守るための選択肢を増やすことにつながります。
まずは自宅でできるスクワットなど、無理なく続けられる筋トレから始めてみてはいかがでしょうか。

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